東京高等裁判所 昭和56年(う)1156号 判決
被告人 金子太一
〔抄 録〕
検察官は本件の公訴事実として、被告人の道路交通法六八条、一一八条一項三号の二に該当する三個の具体的行為を挙げこれらがいわゆる接続してなされたため包括して一罪を構成するものとして起訴したことが明らかである。しかるに、原判決は、(罪となるべき事実)として、前記起訴状記載の公訴事実のうち、冒頭に記載された事実と右公訴事実一及び訴因変更請求によって追加された事実を認定判示するにとどまり、右公訴事実二に記載された事実を全く判示していないのである。原判決のこの判示の欠如は、原審において、右公訴事実二を認定するに足る証拠を取り調べていることに徴すると、結局原裁判所が公訴事実中右二の事実の存在を失念看過した結果、これに対する判断を遺脱したものと解すべきであろう。ところで、この判断遺脱は、いわゆる接続犯として包括して一罪を構成する本件公訴事実中の一部の事実に関するものであるから、これをもって刑訴法三七八条三号前段にいう審判の請求を受けた事件について判決をしなかった場合に該当するものということはできないけれども、しかし、単純一罪中の一部の事実についての判断を遺脱したため事実誤認とされる場合とも異なるのであって、結局原裁判所は、判決をするに際し、本件公訴事実につき検察官が訴因として主張する範囲を的確に把握せず、すなわち原裁判所の訴訟手続には法令の違反が存するものというべく、かつ、この違反は、判決に影響を及ぼすことが明らかなものというべきである。
(船田 櫛淵 門馬)